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11月——それは、ケーキ屋にとって“季節が変わる音”が聞こえる月です。
10月のハロウィンが終わり、店頭からオレンジ色のカボチャが姿を消すと、厨房には静かに冬の香りが漂い始めます。
マロン、キャラメル、りんご、チョコレート、ナッツ——。
秋の余韻を残しながら、少しずつ“クリスマスの香り”へと切り替わる季節。
パティシエたちは、この短い期間に「秋の名残と冬の期待」を一皿のケーキに閉じ込めます。
11月のケーキは、まさに素材の宝庫です。
秋の果実が完熟を迎え、冬の味覚が顔を出し始めます。
・紅玉りんご:酸味と香りが際立ち、タルトタタンやシブーストに最適。
・和栗:モンブランやロールケーキに深みを与える“和の甘味”。
・洋梨(ラ・フランス):とろけるような舌触りが魅力。カスタードとの相性抜群。
・チョコレート:気温が下がり、テンパリングが安定する11月は“ショコラの季節”。
パティシエの手元には、季節の素材が次々と届きます。
そのひとつひとつの香りを確かめながら、
「この栗はタルトに」「この洋梨はムースに」——まるで詩を紡ぐようにメニューが生まれていきます。
11月のショーケースには、期間限定のケーキが並びます。
マロンショコラ、洋梨タルト、キャラメルポワール、そして焼き菓子の詰め合わせ。
仕込みは早朝から始まります。
パティシエがまだ冷えた厨房で、
チョコを刻み、生クリームを泡立て、タルトを焼き上げる。
甘い香りが立ち込めるその空間は、まるで音のない劇場のようです。
「香り」と「温度」がケーキの命。
一度でも温度管理を誤ると、チョコレートは白く曇り、ムースは崩れてしまう。
だからこそ、パティシエは毎日同じ手順を守りながら、
その中に“季節ごとの変化”を感じ取っています。
11月後半に入ると、厨房は少しずつクリスマスモードへ。
予約表、スポンジの型数、デコレーション資材、配送ルート。
すべての工程を一から見直し、12月に備えます。
「クリスマスケーキの予約開始」——この一言が出ると、店の空気が引き締まる。
苺ショートのイチゴの発注量を増やし、
ガナッシュ用チョコを仕入れ、飾り用のサンタピックを整える。
そして何より、11月は“試作の月”。
どんなクリームが軽いか、どんなスポンジが口溶けいいか、
試行錯誤を重ねて「今年だけの味」を探し出します。
ケーキ屋にとって11月は、華やかさの裏で「静かな努力の月」です。
お客様が笑顔でケーキを受け取る12月のために、
厨房の中では毎日、地味で丁寧な仕事が続いています。
バターの香り、焼き上がりの音、粉糖の舞い。
その一つ一つが、やがて“冬の甘い香り”へと変わっていく。
11月のケーキ屋は、季節をつなぐ架け橋。
秋の余韻を残しながら、冬の光を迎える。
職人たちは今日も、“その瞬間にしか出せない味”を探し続けています。